だからこの恋心は消すことにした。
俺がアイツの恋心を「気持ち悪い」と言えばアイツは俺が1番見たかった顔をする。
俺がアイツに不用意に近づけばアイツはいとも簡単に頬を赤くする。
「ふふ」
何て愉快な人間なのだろうか。
哀れで愚かで可哀想。
そう思われていても、俺に何度傷つけられていても、自身の恋心を捨てられない。
何て不憫な生き物なんだろう。
ああ、気持ち悪い。
理解できない。
もうすぐここでの任務も終わる。
アイツに久しぶりに会った時、どんな意地悪をしてやろうか。
次にアイツと会った時のことを考えると愉快で仕方ない。
窓から見える美しい景色を眺めながら俺はまた小さく笑った。
*****
任務から帰って来て数日。
離宮で久しぶりの休日を満喫していると食堂でついにアイツとばったり会った。
アイツはマテオと楽しそうに会話をしながら軽食を食べていた。
「プリモはやっぱりいいところだったぜ。飯も酒も女も最高だったわ」
「マテオらしい楽しみ方ですね。景色はどうでした?あのプリモからの景色は」
「あ?あー、あそこは…」
「マテオにそんなものを楽しむ情緒なんてないでしょ」
マテオの次の言葉を待つラナに俺は小馬鹿にしたように笑い、2人の会話に入る。
すると小馬鹿にされた張本人マテオは「その通りだな」とあっけらかんとしていた。
「うまい酒と飯と女、それだけで俺は十分なんだわ」
「えぇー。何のために王様を説得したと思っているですか。あの景色を疲れた魔法使いたちに見せて癒されて欲しいって言ったんですよ?その3つを揃えるだけなら他でもよかったじゃないですか」
「その3つがきちんと揃っているのがあそこだったんだよ」
「…他でも絶対にあります」
「まぁまぁ。そう言うなよ?今度あそこに連れて行ってやるよ。きっとラナも気に入る景色だぜ?」
「あー!話逸らさないでください!…でもその約束忘れないでくださいよ?」
「おう。当たり前だろ?」
2人が楽しそうに笑っている。
バカな男。
そうやってラナと2人きりになる口実を作っているんでしょ?
でも無駄だよ。ラナの心までは手に入らない。
そいつの心は俺の物だから。