だからこの恋心は消すことにした。
「なかなか綺麗な景色だったね。俺もラナが気に入りそうだと思っていたけど、マテオに連れて行ってもらえるなら俺とはいいかな」
こうやって言えばきっとラナは困ったような顔をするはずだ。
期待に満ちた瞳でこちらを見るが、俺を特別扱いできないから飛びつきたいご馳走(誘い)にも飛びつけない。
哀れで可哀想でかわいい秘書官様。
「エイダン、ありがとうございます。そう思っていただけて嬉しいです。マテオと行ってきますね」
あれ。
ラナはふわりと他の魔法使いたちに見せるあの笑顔を俺にも向けている。
そこには俺への葛藤が何もない。
おかしい。
ラナはこんなこと俺にはしないのに。
前までは上手く隠していたが、俺に自分の気持ちがバレてしまってからラナは自分の感情を上手に隠せなくなっていた。
それなのに今は以前と同じように上手いこと隠している。
なかったはずの余裕が生まれている。
会っていないたった数週間で何があったんだ?
「…ふぅん。そうしたら」
俺は面白くなくなり、その場から魔法で姿を消した。
俺の気を引く為にあんな態度を取ったのならお門違いだ。
俺は可哀想で哀れな秘書官様が好きなのだ。
みんなに優しい秘書官様には興味なんて微塵もない。
*****
以前みたいに戻れよ。
俺が好きだった可哀想で哀れな秘書官様に。
ラナが突然、俺を他の魔法使いたちと同じように扱うようになった。あの生ぬるい優しいだけの笑顔を俺にも向けるようになった。
最初は俺の気を引こうとバカなことをしているのだと思っていた。だから俺はアイツにあの笑顔を向けられる度にそっけない態度で姿を消した。
そんな姿を見せ続ければ、俺を大好きで大好きで仕方のない秘書官様ならすぐに自分の過ちに気づくだろう。
そう高を括っていた。
だがしかしラナはあのクソつまらない態度を変えることはなかった。
むしろ1ヶ月嫌と言うほどラナを見て気づいたことがある。
最初は気持ちをまた上手に隠しているのだと信じて疑わなかったが、もしかするとそうではないのかもしれない。
ここ1ヶ月のアイツはまるで俺への恋心を失ってしまったかのようにあっさりしているのだ。