だからこの恋心は消すことにした。
そんな私の様子を見てエイダンは「つまんな」と小さく悪態をついていた。
「それで本当にどうされたんですか?」
何故私の前に突然現れたのか、未だに理由を明かさないエイダンに私は再び同じことを聞く。
先ほども言ったが、エイダンはここの魔法使いたちの中でも特に気まぐれだ。
ここに来た理由も特にはないのかもしれない。
たまたま気まぐれに私の前に現れた可能性も十分ある。
あるいは先日からの怒りで私に嫌がらせをしにきた、とか。
この前の嫌がらせがキスなら、今日の嫌がらせは何なのだろうか。
服を奪われてしまうのだろうか。痛い思いをするのだろうか。
それとも今私にエイダンが宣言したように食べられてしまうのだろうか。性的な意味で。
「…」
私の顔色がどんどん悪くなる。
何をされるにしても最悪だ。
「…何を考えているのか大体察せるから言うけど、違うから」
どんどん青白くなっていく私を呆れたようにエイダンが見つめ、大きなため息をつく。
それからパチンッと指を鳴らすと、何もなかった私の目の前に小さな取手のついた白い紙の箱が現れた。
その白い紙の箱には〝ラム〟と書いてある。
この国で一二を争う大人気のケーキ屋の名前だ。
「ラムのケーキですか…。紅茶の準備をすればいいですか?それともコーヒー?」
エイダンに何を求められているかわからず、私は首を傾げる。
どんなケーキが入っているのかわからないが、エイダンのことだ。
とびきり甘いケーキが入っているのだろう。
フルーツの自然な甘味よりもエイダンは砂糖などの人工的な甘味を好む。
この箱の中に入っているケーキは生クリームをふんだんに使われたケーキかもしれない。
チョコケーキの可能性もある。
それらに合わせるならコーヒーの方がいい気もするが、甘いものが大好きなエイダンなら飲み物も甘いものを欲しがる可能性が高い。もしかしたら気分でコーヒーを欲しがるかもしれないが、それでもきっと甘いコーヒーを欲しがるだろうから、砂糖とミルクは必須だ。
宙に浮いたままのケーキの箱を見つめながら、うんうんと考えていると、エイダンが痺れを切らしたように口を開いた。