だからこの恋心は消すことにした。
「…何でもありません」
「本当に?そんな顔で言われても信じられないよ?」
「本当に、何でもないんです…」
彼は曲者だらけのこの離宮の中でもとにかく優しい存在だ。
むしろ優しすぎて相手を優先し、自分を犠牲にしてしまう悪い癖がある。そんな彼に好意を持つ人も多いが、あまりにも自己犠牲的なので彼に近ければ近いほどその性格は嫌われる傾向にある。
自分を大切にしない彼を近くで見続けるのはあまりにも辛いからだ。
そんなカイに今の状況を言ってしまうとどうなるのだろうか。
自己犠牲の強いカイなら私を悲しませた彼に命懸けの決闘とかを申し込みかねない。
それだけはダメだ。
そもそも私が悪いのに命懸けの決闘を申し込まれるとか〝彼〟があまりにも不憫すぎる。
「辛いことがあれば何でも言ってね?ラナは僕の大切な友だちなんだから」
「ありがとうございます、カイ」
私の手をそっと両手で握りしめるカイに私は何とかにっこりと笑った。
カイの優しさが嬉しかったが、同時にやはり罪悪感が私の胸を締め付けた。