だからこの恋心は消すことにした。
「俺に言いたいことあるんじゃない?」
突然、エイダンが足を止めて、その場で私をじっと見つめる。私の本心を探るような、試すようなそんな視線だ。
エイダンは私の気持ちに気づいているのだろうか。
だからこんなことを聞くのだろうか。
またエイダンに恋をしてしまった時、同じ失敗は繰り返さまいと気を引き締め、絶対にこの想いをエイダンの前だけでは悟られないように取り繕ってきた。
だが、それは無駄だったのだろうか。
…どちらにせよ、私は後悔しない為にエイダンへと想いを伝えると決めた。
「…エ、エイダン。あの、ですね…」
だから私は言いにくそうにだが、ゆっくりと口を開いた。
そして絶対に声が震えないようにぎゅっと全身に力を込めた。
「…わ、私は、その…」
「おお!ラナじゃねぇか!」
やっとの思いでエイダンへの気持ちを口にしようとしたその時。
向こうの方から誰かが私の名前を大きな声で呼んだ。
声の方へと視線を向けると、そこにはマテオおり、明るい笑顔でこちらに手を挙げていた。
マテオの周りには数人の派手な人たちもいる。
おそらく一緒に飲み歩きでもしていたのだろう。
「マテオ!」
私はそんなマテオの姿を見て、ついホッとしてしまった。
まだ心の奥底では、この幸せな泥濘から抜け出したくなかったのだ。
もう少しだけ今のままでいたいと願ってしまった。
気がつけば、私はマテオの元へと駆け寄っていた。