愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
無理して作らなくていいという優しさの裏に、実は食べたくないという気持ちが隠されているのではと不安になった。

すると夫が少しだけ焦った顔をした。

「成美の料理は美味しい。嘘でも気遣いでもないから信じてくれ。だが、疲れているのに無理して作ってもらっても、心苦しくなる。適当にやるのは悪いことじゃない。楽に楽しく。言葉だけではわかりにくいだろうから、今からそれを実践しよう」

ニッと笑った夫が鼻歌を歌い、成美が出した食材を冷蔵庫にしまっていく。

(実践って、なにをするの?)

戸惑いながらもすべてをゆだねるつもりで、成美はエプロンを脱いだ。



数時間が過ぎて時刻は二十二時を回った。

「あっ! 朝陽さんそれはズルいです。初心者へのハンデとして必殺技は使わないと約束したじゃないですか」

「二十回目だよ。もう初心者じゃないだろ。ほら、抗議より早く防御しないと。一発KO負けするよ」

リビングのテレビ前の床に朝陽があぐらをかき、その隣で成美が正座している。

大画面に向かって対戦型格闘ゲームの真っ最中だ。

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