愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
適度な厚みで形のいい唇がやけに艶めかしく見え、ゴクッと喉を鳴らした。

速い鼓動を感じつつ、彼の色気に惑わされてみようと片手を握りしめて顔を近づけたら、遠くから微かに人の話し声がしてハッと我に返った。

(私ったら、なにをしようとしているのよ)

慌てて夫の口に押しつけたのは、肉まんだった。

「公共の場で、みだらな行為はできません」

肉まんを飲み込んだ朝陽が不満げに眉根を寄せる。

「せっかくいいムードだったのに。新ルールを守ってよ」

「楽しい方を選ぶという三つ目のルールですか? 誰かに見られると思いながらのキスは、ハラハラして楽しめません。目撃してしまった方にも失礼です。すみませんが帰ってからにしてください」

「今、『すみません』と言ったね。禁止したはずだよ。ルール違反の処罰を受けてもらおう」

「えっ、罰があるなんて聞いていませ――きゃっ!」

強引に唇を奪われ、成美の力ではほどけないたくましい腕の中でジタバタする。

「いちゃついてんなよ」

通りすがりの中年男性の声がして、舌打ちも聞こえた。

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