愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「持って帰れなかったの」
革の台紙に入れられた見合い写真を先生から見せてもらったそうだが、相手の意向で持ち帰らせてもらえなかったという。
成美の表情が明らかに曇ったため、母が慌てて言う。
「きちんとした方だったわ。そこは安心していいと思う」
(安心できないよ。どうして写真を渡せないの? 写真とは別人が来たりしない?)
「とにかく会ってみるね」
母を困らせないように承諾したものの、不安が先行する見合い話だった。
七月上旬の日差しは強烈だが、格式高い老舗ホテルのロビーはひんやりと涼しく、汗がすぐに引いていく。
日曜日の今日は見合いの日。
十一時半からの約束で、二十分前に成美と母はこのホテルに到着した。
鶯色の訪問着姿の母がフロントで受け付けするのを、成美は少し後ろで緊張しながら待っている。
見合いの話を母から初めて聞いたのは十日前で、それから新たに知ったのは、藤江朝陽(ふじえあさひ)という相手の名前と、アカフジ電機本社の社長の次男という情報だ。
大企業の御曹司なら結婚相手は選び放題だと思うのに、なぜ成美に見合いを申し込んだのかがさっぱりわからない。
革の台紙に入れられた見合い写真を先生から見せてもらったそうだが、相手の意向で持ち帰らせてもらえなかったという。
成美の表情が明らかに曇ったため、母が慌てて言う。
「きちんとした方だったわ。そこは安心していいと思う」
(安心できないよ。どうして写真を渡せないの? 写真とは別人が来たりしない?)
「とにかく会ってみるね」
母を困らせないように承諾したものの、不安が先行する見合い話だった。
七月上旬の日差しは強烈だが、格式高い老舗ホテルのロビーはひんやりと涼しく、汗がすぐに引いていく。
日曜日の今日は見合いの日。
十一時半からの約束で、二十分前に成美と母はこのホテルに到着した。
鶯色の訪問着姿の母がフロントで受け付けするのを、成美は少し後ろで緊張しながら待っている。
見合いの話を母から初めて聞いたのは十日前で、それから新たに知ったのは、藤江朝陽(ふじえあさひ)という相手の名前と、アカフジ電機本社の社長の次男という情報だ。
大企業の御曹司なら結婚相手は選び放題だと思うのに、なぜ成美に見合いを申し込んだのかがさっぱりわからない。