愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
疑問と不安がもやもやと心にくすぶって、昨夜は目を閉じてもなかなか眠れなかった。

(なにを話せばいいの?)

女子高時代のクラスメイトの中にはお金持ちのお嬢様もいたけれど、それ以降はセレブな人との交流はない。

こんなに緊張するのは初めてだった。

ホテル従業員の案内でエレベーターに乗り、三階を目指す。

エレベーターの後ろの壁は鏡になっており、成美はそっと振り向いて自分の姿を確認した。

着ているのは薄桃と白地の振袖で、四季花と御所車の古典柄が鮮やかに織られている。

有名な職人が手掛けた逸品だというこの振袖は、見合い話を持ってきた税理士先生の娘からの借り物だ。

節約生活を長年続けている身では、自分の成人式にレンタル振袖さえ着られなかったので、これが初めての振袖である。

肩下までのストレートの黒髪はここに来る前に美容室で和装に合うように結い上げてもらい、藤花のかんざしを差していた。

(きれいな振袖が着られたのは嬉しい)

見合いへの不安とは別に、特別なおしゃれができて心が弾む。

エレベーターを降りて絨毯敷きの静かな廊下を進み、通されたのは〝桔梗の間〟と書かれた八畳の座敷だ。
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