愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
床の間の掛け軸が桔梗で、内縁とガラス戸の向こうに見えるテラスは和風庭園のように造られており、そこにも白や青、紫の桔梗の花が咲いていた。
庭園を囲う竹垣が日差しを弱めてくれるので暑さを感じずに鑑賞できる。
約束の時間より十五分早いので相手はまだ到着しておらず、ホテルの従業員が下がった後、成美と母は艶やかな座卓に向かって並んで座った。
(このお部屋の使用は二時間なのね。会食には一時間くらいかな。その後はすぐ帰りたいけど、こちらから言い出したら失礼なのかな)
「成美、ごめんなさいね」
不安や緊張が顔に出てしまったのか、母に謝られてハッとした。
慌てて笑みを作る。
「少し緊張しているけど、大丈夫。振袖を着る機会に恵まれてよかったよ」
気遣ったつもりが、母の悲しげな目を見て余計な発言に気づいた。
成人式の日に、振袖を着せてあげられないと自分を責めていた母を思い出す。
「成美には苦労をかけて、本当にごめ――」
「お母さんのせいじゃない。お父さんが……ううん、なんでもない」
(借金を作ったのはお父さんだけど、私にも責任がある。お父さんを責められない)