愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
連帯保証人になって返済義務を負った時に為替取引に手を出したのは、家族に迷惑をかけまいとしての思いからだ。

学費の高い私立の女子高に通い、習い事もたくさんして、なに不自由なく暮らしている娘の生活を変えたくなかったのだろう。

首が回らなくなるまでひとりで悩み、苦しんでいたのではないだろうか。

それに気づいてあげられず申し訳ないと思っても少しも恨んではいないし、借金返済は自分の義務のような気がしているので母に謝ってほしくない。

「お庭の桔梗、きれいだね」

話を逸らそうとしたら襖が数センチ開いて、着物姿のホテル従業員が膝をついて顔を覗かせた。

「お待ち合わせのお客様がお見えになりました」

襖が大きく開けられると、三つ揃えのライトグレーのスーツを着た青年が現れた。

「藤江朝陽です。お待たせしてすみません」

チョコレートブラウンの短い髪は緩いウェーブがついて、おしゃれで清潔感のあるビジネスヘアにセットされている。

柔らかそうな前髪が額に斜めにかかり、凛々しい眉の下にはやや垂れ目の瞳。

鼻筋はスッと高く、唇は適度な厚みがあって、人目を引くような美形である。

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