愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
勢いよく立ち上がった彼は水を飲んでしまったらしく、激しくむせている。

コースロープを挟んで成美と向かい合うと、競泳眼鏡を上げて文句をぶつけてきた。

「なにをするんだ」

不機嫌そうに眉まで寄せられては、普段は温厚な成美でもムッとする。

「それは私の台詞です。触っておきながらその態度はどうなんでしょう。故意じゃないのはわかっていますけど、もう少し申し訳なさそうにしてはいかがですか?」

肩や腕にぶつかったわけじゃないのだ。

たとえ偶然だとしても、心からの謝罪があって当然のように思う。

しかし彼に反省は見られず、それどころか溜息をつかれた。

「申し訳なかった。だが、背泳ぎの進路に立たれたらぶつかって当然。君にも落ち度はある。それに背中に手があたったくらいで、そんなに怒らなくてもいいだろ」

(背中……?)

胸に触れられた時よりも強いショックを受けた成美は、怒りを一瞬忘れて呆然とした。

それが納得したように見えたのか、眉間の皺を解いた彼が問題解決とばかりに微笑みかける。

「君は怒り顔より笑顔が似合うと思うよ。可愛い顔をしているんだから」

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