愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
どう言っても成美を傷つけそうだという焦りと気遣いが言い訳から伝わってくる。

そんなに悪い人ではないようで怒りは薄らいだが、恥ずかしさはしばらく引きずりそうだ。

「お詫びは結構です」

目を合わせられずに視線を泳がせ、早く目的を果たして会話を終わらせようとする。

「私も進行方向に立ってすみませんでした。どうしてもあなたにお伝えしなければと思ったんです。お話を聞いていただけますか?」

「もちろん」

彼の泳ぐスピードが速すぎて他の利用者が同じコースを使えず、その結果、もうひとつのコースに人が集中していたと話した。

「こちらは速く泳いでいいコースだと聞きましたが、独占はいけないと思います。プールの利用を諦めて帰ろうとしていた方がいましたので、もう少しスピードを緩めていただけないかと思いお声がけしました」

「そうだったのか。気をつけるよ」

すんなりと注意を聞き入れてくれてホッとしたのもつかの間、彼が急に眉根を寄せた。

なぜか真剣な目をして成美の顔のあちこちに視線を動かしている。

「よければ君の名前を聞かせてもらえないだろうか?」

(どうして?)
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