愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
有名ブランドの高級腕時計がよく似合っている。

「二十一時を過ぎたな」

独り言のように呟いた彼が成美に視線を戻す。

「よかったら、もう一軒付き合ってくれないか?」

「あの、今はお腹がいっぱいで、なにも食べられないです」

もう少し話したい気持ちはあるので、断らなければならない胃袋の小ささを残念に思う。

「夜景のきれいなバーラウンジがあるんだ。そこで軽いカクテルを飲むのはどう? 門限があるなら送っていくよ」

子供の頃は学校や習い事が終わればまっすぐ帰宅していたので、親に門限を決められたことはない。

社会人になると会社の忘年会など遅い時間の外出が年に数回あるが、一次会で帰っている。それくらいしか遅くに出歩いた経験がなかった。

母の顔を思い浮かべて迷う。

「門限はありませんが、母が心配すると思うんです。連絡していいでしょうか?」

聞いてから親への確認が必要なんて子供じみていると思い、恥ずかしくなった。

しかし朝陽に呆れた様子はなく、「もちろん」と爽やかな顔で頷いてくれた。

彼に背を向けて母に電話をかける。

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