愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
しかし十回コールしても繋がらないので、遅くなる旨のメールをした。

(お母さん、入浴中かな。もしかして、少しも心配していない?)

『誠実で紳士的。すごく素敵な方ね』

お見合いの日から母は朝陽を思い返し、何度もそのように言った。

朝陽への信頼は絶大で、娘の心配をするなら帰宅時間ではなく、初めてのデートで粗相をしないかという問題かもしれない。

二軒目に言っていいかと聞く必要はなさそうだ。

「お待たせしました。次のお店もどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ。近くだから歩いていこう」

三分ほど歩いてタワーホテルの最上階に上がった。

バーラウンジの中へと誘う朝陽の手が背中に添えられ、その温かさに鼓動が高鳴る。

広々とした円形のフロアに足を踏み入れると、スタイリッシュで落ち着いた大人の空間が開け、紳士や淑女がお酒を静かに嗜んでいた。

照明は低く落とされて、フロアを半周する窓ガラスからまばゆい都会の夜景が見える。

窓に沿ってカウンターテーブルが長く伸び、座高の高い椅子が等間隔に並んでいた。

木目のカウンターテーブルを前にして、成美はうっとりと景色を眺める。

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