愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
(レストランでも思ったけど、今日の私はおかしい。恋愛を期待していない。これっきりの関係だとわかっているのに、どうしてこんな気分になるの?)

注文を聞いた店員が戻っていく。

夜景を見ながら黙って自分の心と向き合っていたら、突然片側のイヤリングが揺れて驚いた。

朝陽が指でつついたのだ。

咄嗟に耳を隠して彼を見ると、いたずらめかした笑みを浮かべる。

「俺の顔も見て」

「は、はい」

体ごと彼の方に向き直り、膝の上で両手を重ねて背筋を伸ばした。

凛々しい眉に甘口の瞳、スッとした鼻梁と形のいい唇を眺めていたら吹き出された。

「素直で真面目だな。成美さんの反応が可愛くて、もっと近づきたくなる」

ニッと口の端を上げた朝陽に膝の上の手を取られ、軽く握られた。

(この手はどういう意味?)

たちまち鼓動が高まり、顔に熱が集中する。

その時、「お待たせしました」と先ほどの店員に声をかけられた。

肩をびくつかせて慌てて体の向きを戻したが、朝陽が離してくれないので手はテーブルの下で握られたままだ。

隠れて悪さをしている気分になり、成美はうつむいた。

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