ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 突然横から手が伸びてきた。
 反射的に背中をそらせるがヘッドレストが邪魔をする。

 触れるか触れないかの、ぎりぎりのところで耳の縁をたどられて、大きく肩が跳ねた。頬にかかる後れ毛をそっと耳にかけられる。

「言い過ぎどころか足りないくらいだ。心の底からそう思っていると信じてもらえるまで何度でも言うよ。本当にきれいだ。きれいすぎて困る」

『困る』だなんて言われてもこっちこそ困ってしまう。
「からかわないでください」と言いたくても、口を開くことすらできない。間近で見つめられて心臓の音が飛び出しそうなのだ。

 彼は私の髪をひと房手に取り、指に絡ませながら真顔で言う。

「これからふたりきりでゆっくりできる場所でじっくり説明しようか。パーティはいっそキャンセルして――」

 慌てて顔を左右に振る。今ですら心臓がどきどきとうるさいのに、完全に『ふたりきり』だなんて止まってしまうかもしれない。

「パーティに行きたいの?」

 必死にこくこくと頭を動かす。決してパーティに行きたいわけではないけれど、ふたりきりになる場所よりはおそらく平穏でいられるはずだ。

「そうか、それなら仕方ない。また別の機会にしよう。でも、パーティ会場では俺から絶対に離れないように。いいね?」

 なんとか思い直してくれた様子にほっとしてうなずく。見ず知らずの人ばかりの中で彼から離れてひとりでうろうろする気なんて毛頭ない。

 すると彼は、指に絡ませた私の髪にそっと口づけを落とした。

「俺も片時もおそばを離れず、女神様をお守りすることを誓います」

 色香にあふれた瞳に見つめられ、いとも簡単に心臓が暴れはじめる。

 石像のように動きを止めた私を見て「くすり」と笑った彼は、すっと体を元の位置に戻し、滑らかに車を発進させた。
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