ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「相変わらずきれいな英語だな」

 英語が堪能な櫂人さんに褒められてうれしくなったけれど、すぐにはっと我に返る。

「ご友人が英国大使だってなんて聞いてません」

 上目遣いでじっとりと彼を見たら、いきなり頭を抱きよせられた。

「なっ」
「その顔はだめ」

 ぴしゃりと言われて口をつぐんだ。子どもっぽすぎたのかもしれない。

 場にふさわしくない行動をしてしまったのだと青くなりかけたところで、予想外の言葉が聞こえてくる。

「かわいいが過ぎる。ここにいる男が全員きみの虜になってしまうじゃないか。不必要な敵は作らないようにしないとな。円滑な対人関係における基本中の基本だ」
「え、え?」

 なにをどこから突っ込んだらいいのだろう。それよりもまずはこの体勢をなんとかしなければと、両手で彼の胸を押し返したら、逆に腕に力を込められる。

「か、櫂人さん⁉」

 周囲にはたくさん人がいるというのに、いったいどうしちゃったの?

 付き合っていたときはこんなふうに人前で過度なスキンシップを取ることなんてなかった。せいぜい手をつなぐくらいで、キスどころかハグだって人目につかないところでしかしたことがなかったのに。

「虜になるのは俺だけで十分」

 艶めいた低音を耳の奥に吹き込まれ、ぞくりと甘い痺れが走る。眩暈がしそうだ。

 くらくらしているうちにエスコートされて大広間に一歩足を踏み入れた瞬間、華やかな雰囲気に圧倒された。

 高い天井には豪奢なシャンデリアがきらめき、よく磨かれた飴色のフローリングに光を落としている。
 優雅なBGMに心が勝手に浮き立つのを感じながら、ウェルカムドリンクを受け取り、中へと進んだ。

 壁に沿って並んだテーブルにはいくつもの料理が置かれていて、おかむらのメニューの参考になるかもと、ついまじまじと見てしまう。

「パーティが始まったら好きなものを食べたらいい」

 横から声をかけられて焦った。あまりに真剣に料理を見ていたせいで、きっと物欲しそうに見えたんだ。恥ずかしさで赤面しながら慌てて訂正しようと口を開いたとき。

「こんにちは」

 後ろから聞こえた声に振り向くと、着物姿の女性が立っていた。
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