ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
「北山」
彼が口にした名前に憶えがあった。動物園で会った女性だ。
あのときもきれいな人だなとは思ったものの、今の彼女は同性の私でも見惚れるほど美しい。
上品な桜色の生地に、牡丹や藤、菊などの色彩豊かな花が丸文様を描かれた着物は、肌の白い彼女にとても似合っている。
軽く会釈をしたら目が合った。じろりと睨まれ、胸がひやりとする。
「私の誘いを断ったのは、彼女と一緒に来るつもりだったからですか?」
「ああそうだ」
「なぜですか? このパーティは非公式のものですが、公務ともかかわるかもしれないため、省員同士でペアになる方がいいと上から言われていたじゃないですか。私ならグレイ夫人とも面識がありますし、どんな場合でも対応が」
「北山」
櫂人さんに呼ばれた北山さんは、ぴたりと言葉を止めた。
「今日のパーティの趣旨はきちんと把握しているのか?」
いつもより低く固い声の櫂人さんに対し、彼女は「もちろんです」とはっきり言い切った。
「英国大使夫妻の結婚二十周年を祝うと共に、我々も大事な人への感謝や愛情を深めよう。そういう趣旨ですよね」
「そうだ。主催者であるグレイ夫妻は、自分たちを祝ってくれる人たちのために、大事な人との楽しい時間を過ごしてもらおうとこの会を開いた」
なんて素敵な会なのだろう。
祝う側も祝われる側も、お互いのことを思いやっているのだ。
今初めて知ったパーティの趣旨に、胸の内がじわりと温まるのを感じていたら、彼が思いがけないことを口にする。
「俺はそんなグレイ夫妻に敬愛の気持ちを込めて、〝一番大事な人と〟彼らの記念日を祝いたと思う」
思わず隣を振り仰いだ。私にパーティの同伴を頼んだ裏に、そんな理由があったなんて。
胸が震えほどの歓喜が湧き上がると同時に、この場で彼の隣に立つことの意味が胸にじわじわと染み込んでくる。けれど、次に聞こえた言葉に息をのんだ。
「ですが、もし公務に支障をきたしたら」
頭から冷水をかけられた気がした。
そうだ。私がなにか失敗したら、櫂人さんだけでなく想像もできないくらい大きな範囲で迷惑をかけることになるかもしれないのだ。
彼が口にした名前に憶えがあった。動物園で会った女性だ。
あのときもきれいな人だなとは思ったものの、今の彼女は同性の私でも見惚れるほど美しい。
上品な桜色の生地に、牡丹や藤、菊などの色彩豊かな花が丸文様を描かれた着物は、肌の白い彼女にとても似合っている。
軽く会釈をしたら目が合った。じろりと睨まれ、胸がひやりとする。
「私の誘いを断ったのは、彼女と一緒に来るつもりだったからですか?」
「ああそうだ」
「なぜですか? このパーティは非公式のものですが、公務ともかかわるかもしれないため、省員同士でペアになる方がいいと上から言われていたじゃないですか。私ならグレイ夫人とも面識がありますし、どんな場合でも対応が」
「北山」
櫂人さんに呼ばれた北山さんは、ぴたりと言葉を止めた。
「今日のパーティの趣旨はきちんと把握しているのか?」
いつもより低く固い声の櫂人さんに対し、彼女は「もちろんです」とはっきり言い切った。
「英国大使夫妻の結婚二十周年を祝うと共に、我々も大事な人への感謝や愛情を深めよう。そういう趣旨ですよね」
「そうだ。主催者であるグレイ夫妻は、自分たちを祝ってくれる人たちのために、大事な人との楽しい時間を過ごしてもらおうとこの会を開いた」
なんて素敵な会なのだろう。
祝う側も祝われる側も、お互いのことを思いやっているのだ。
今初めて知ったパーティの趣旨に、胸の内がじわりと温まるのを感じていたら、彼が思いがけないことを口にする。
「俺はそんなグレイ夫妻に敬愛の気持ちを込めて、〝一番大事な人と〟彼らの記念日を祝いたと思う」
思わず隣を振り仰いだ。私にパーティの同伴を頼んだ裏に、そんな理由があったなんて。
胸が震えほどの歓喜が湧き上がると同時に、この場で彼の隣に立つことの意味が胸にじわじわと染み込んでくる。けれど、次に聞こえた言葉に息をのんだ。
「ですが、もし公務に支障をきたしたら」
頭から冷水をかけられた気がした。
そうだ。私がなにか失敗したら、櫂人さんだけでなく想像もできないくらい大きな範囲で迷惑をかけることになるかもしれないのだ。