ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 揺るぎない瞳で真っすぐに見つめられ呼吸を忘れる。涙でぼやけた視界の中で、彼がゆっくりと唇を動かすのが見えた。

「さやか。今でもきみを愛している」

 堰を切ったかのように涙があふれ出した。

「わ、私……私にはっ……」

 嗚咽が漏れ、生温かいしずくが次々に頬を伝って落ちていく。
 涙に濡れた顔を伏せようとすると、頬を両手で包まれた。彼の瞳がせつなげに揺れる。

「泣かないで、さやか。責めているわけじゃないんだ。俺はただ、きみが俺以外の誰かを忘れられなくてもいいと――」
「そんな人いない!」

 ぎゅっと目を閉じた。頭の芯が痺れたようになって、なにも考えられない。胸の底に沈めてきた想いが、口からこぼれ出していく。

「忘れられない人なんていない。あなた以外の人なんて好きにならない。私はずっとあなただけ、あなたのことが……」
「さやか」

 名前を呼ばれてはっと目を見開くと、怖いくらい真剣な顔をした櫂人さんがいた。

「どういうことだ? 俺以外のやつを好きになったから別れたんじゃないのか?」

 両肩に手を置かれ切迫した表情で問われたけれど、なにも返すことができない。すると櫂人さんが「もしかして」とつぶやいた。

「別れた原因は叔父さんの失踪……?」

 思わず息をのんだ。動揺を隠しきれない私の様子に、彼の顔色が見る見る変わっていく。私がなにも言わずとも、彼は自分で正解を導き出した。

「じゃあ拓翔君の父親は……」

 俺なのか、と声にならない言葉が聞こえた。

 もうこれ以上隠し通しておくことはできない。
 覚悟を決めて恐る恐るうなずくと、途端彼はその場に崩れ落ちるようにひざをついた。
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