ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない

 救急車で運ばれた病院で、祖父の急性虫垂炎が判明した。

 命にかかわる病気ではなく心底安堵したら、猛烈な後悔が襲って来た。

 もしかしたら祖父はずっと痛みをがまんしていたかもしれない。どうして気づいてやれなかったのだろう。祖父のことをいたわれるのは私しかいないのに。

 あと少し遅かったら命にかかわる事態になっていた可能性もあったとドクターに言われた。腹膜炎を起こして緊急手術になると、高齢の祖父には負担が大きい。櫂人さんとのことで浮ついていたことを猛省した。

 ひとまず点滴で炎症を抑え、後日手術をすることになるが、あれこれと検査もあるため、しばらくは入院生活だ。

 祖父と話し合って、おかもとは臨時休業にすることにした。

 ちょうど大型連休に入るところでもともとの休みもあったが、退院しても祖父の調子が戻るまでは休業にしておこうと思う。売り上げのことを考えると痛いが、とにかく祖父の体が第一だ。

 元気になったらまた一緒にがんばろう。そう思いながら店のシャッターに【臨時休業中】の張り紙を貼った。

 入院二日目の今日は、拓翔が保育園に行っている間に必要な書類や入院セットを用意して、祖父のところへ持って行った。引き換えのように持ち帰った衣類を洗濯機で回しながら今後のことを考える。

 厨房に残された食材のストックのことなど、細々としたことはいくつかあるけれど、一番に考えなければならないのは、英国大使からの注文だ。

 幸か不幸か、祖父には注文を受けたことをまだ伝えていない。この状態で相談したら、残念だが今回は諦めようと言われるに違いない。そう言った祖父自身が自分を責めるだろう。

 私ひとりでもなんとかできないかと考えたが、三十個をひとりこなすのは容易ではない。行楽へ行くご家族の分だけでなく、大使館スタッフにも配りたいそうだ。

 なにより祖父不在のため、和食の味を楽しみにされているグレイ大使のお母様をがっかりさせてしまうのは避けたい。
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