ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
 思わず上げそうになった悲鳴をどうにか喉もとでこらえる。窓の向こうはブロック塀だ。大人の肩くらいまでの高さがある上に隙間も小さい。横向きでないと通れない程度の幅のため、他人が入ってくることはまずない。

 泥棒⁉ どうしよう。

 心臓がばくばくとうるさく鳴る。息をひそめて凍りついていると、人影が奥へと移動した。台所の横の勝手口あたりからガチャガチャと音がする。ドアノブを回しているようだ。

 鍵はかけているけれど、この家はかなり古い。どこかしらの窓を壊せばすぐに侵入できる。ぞくりと背筋が冷えた。

 幸い拓翔は保育園だ。私ひとりだけならなんとかなるかもしれない。入り口に立てかけてあるフローリングワイパーを手に取ろうとした瞬間、ポケットの中がブブブと振動した。

「きゃっ」

 背中がビクッと大きく跳ね上がり、そのはずみで手が滑ってワイパーが倒れる。床でガタンと大きな音が立った。

 心臓が早鐘を打つ中、ポケットから携帯電話を取り出す。画面には【結城櫂人】の文字。震える指先で画面に触れた。

『もしもしさやか。ちょうどよかった、俺も連絡しようと思っていたところだ』

 耳から入ってくる優しい声に涙があふれそうになる。なにか言わなければと思うのに、喉が張りついたようになってなかなか声が出ない。

『さやか?』
「かぃ……っ」

 震える声を振り絞ったが、うまく話せない。

『さやか? どうかしたのか』

 電話越しに櫂人さんの動揺が伝わり、急いで涙を拭って深呼吸する。どうにか不審者らしきものの話をすると、すぐに一一〇番するようにと言われた。

 それから数分後、警官が到着したが、家の周囲や近所に不審者の姿は見当たらなかった。
 


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