ひとりでママになると決めたのに、一途な外交官の極上愛には敵わない
祖父が退院するまでの間、私と拓翔は櫂人さんのマンションで暮らすこととなった。
駆けつけた櫂人さんに、店舗兼住居に小さな子どもと女性だけで住むのは不安だからと強く勧められたのだ。
『自分のマンションならコンシェルジュや警備員も常駐しているから、仕事で留守のときも安心できる』
そう説得されれば、怖い思いをしたばかりの私に断るという選択肢はない。
すぐに荷造りをし、彼の車で保育園に拓翔を迎えに行ってから、彼のマンションにお邪魔した。
祖父には正直にいきさつを話した。本当は心配をかけたくないので黙ったままでいたかったけれど、そうはしなかった。祖父の目を盗むようなことはしたくなかったのだ。
話を聞いた祖父は、苦い顔をしながらも櫂人さんのマンションにいることを承諾してくれた。近くに頼れる親戚もいないため、自分が留守の間になにかあったらと心配していたそうだ。
櫂人さんを許したわけではないが、私と拓翔の安全が第一だと言う祖父の愛情の深さに、胸がいっぱいになった。
翌日、祖父の手術は無事に終わった。
心底ほっとしたその夜、仕事から帰ってきた櫂人さんを玄関で出迎える。
「おかえりなさい」
「おかえんしゃーい」
「さやか、たっくん、だだいま」
櫂人さんが幸せそうに目を細めながら拓翔の頭を撫でる。
「ぱんらしゃんもー!」
拓翔が腕に抱いているパンダのぬいぐるみを、櫂人さんの方へとつき出す。彼は笑顔で「パンダさんもただいま」と言ってぬいぐるみごと拓翔を抱き上げた。
ふたりの姿を見ているだけで、胸がじんと熱くなった。こんなささやかな日々をどんなに夢見てきたたことか。
「さやか?」
櫂人さんの声にはっとして、潤みかけた目を乾かそうと瞬きを数回した。
そんな私を見て彼はなにを思ったか、「さやかはこっち」と言って私の唇にちゅっと軽いリップ音を立てた。
「なっ……!」
不意打ちに動揺する私を見て彼はにこにこと満足そうだったが、廊下を数歩進んだところで「あれ?」と首をかしげた。