奈落の果てで、笑った君を。




初めて来たときよりも、この場所は心が安らぐ場所になっていた。


いつの間にか当たり前のようにみんなで囲む食事。

当たり前のようにわたしの名前を呼んでくれる毎日。


そして今日、只三郎から“わたしのお願いを聞けるものはなんでも聞く”と、言われた。



「なんでも…?」


「ええ、私ができる範囲なら。食べたいもの、欲しいもの、あるかい?」


「ええっと、うーんっと…」



わりとぜんぶ叶えてもらってる。

着物がある、温かいご飯がある、みんながいる。

これ以上、なにを望むと言うんだろう。



「佐々木さん。朱花のことなので新撰組の羽織だったり刀だったり、そういったものかと…」


「…それ以外でよろしく頼むよ朱花」



うーんうーんと悩みに悩んだ末、なんとひとつだけ気になるものを思い出した。

それは、いつかの記憶。
牢を見張る男たちの会話。



「わたしっ、よしわらに行きたい!!」



ぶーーー!!!っと、吹き出したのは誰だっただろうか。


……たぶん、わたし以外の全員。








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