見つけたダイヤは最後の恋~溺愛は永遠の恋人だけ~
「乃愛ちゃん!」


声がした次の瞬間、逞しい腕と胸に抱きとめられていた。

「乃愛ちゃん、大丈夫か!?」


…え?

「つ…くも…さん…?」

九十九さんだ…
九十九さん…

何でここに?とか、どうして私ってわかったの?とかそんな疑問は吹っ飛んでしまい、大好きな人を見て、ただただ涙が溢れるだけだった。


するとバタバタという足音と息を切らす声がした。

「あぁ…すいませんね…これから相川さんと…食事に行くんですよ…ハァ…ハァ…ほら、行きましょう、相川さん…ハァ…ハァ…」


私は九十九さんの腕の中で振り返り、その人に向かって言った。

「行きません!それにどうして私を『相川さん』て呼ぶんですか?」

「だって、相川さん…ですよね?」

「確かに私は『相川』ですけど、ここでそれを知る人は二人しかいませんが」

スポーツクラブの関係者では梨本さんと公佳さんしか知らないはずだから。

「え?アイカワ…?」

あ、九十九さんは知らないんだ、私が旧姓に戻ったこと。


「…あ、いや……あっ、誰かが相川さんと呼んでいたから…」

「おかしいですね、誰も私を『相川』とは知らないはずですし、そもそも皆さん、以前から名前で呼んでくれるので」


「チッ…」

「あんた…何で乃愛ちゃんに近づいた」

舌打ちした男に、九十九さんが顔を強張らせて言う。



「うるせぇ!いいからその女をよこせよ!てめぇは黙って失せろ!」

「どちらも断る」

「あーそうかい……じゃあ力ずくで連れてくよ」

そう言うとポケットから何かを取り出した。

「てめぇもバカだよなぁ、おとなしく渡してくれりゃいいのに」

その手には光るものが…
え、何?…ナイフ…?

「邪魔なヤツは引っ込んでろや!」

「九十九さん!危ない!」

「っ!」

男が振り下ろしたナイフが、私を庇うようにして前に出していた九十九さんの左肩辺りを叩いた。

…見る見る内に九十九さんのシャツの左肩から上腕辺りが赤く染まっていく。

「きゃあ!つ…九十九さん!大変!!き、救急車!」


「僕たちの愛の邪魔をする輩は成敗しましたよ。さぁ相川さん、僕と行きましょう」

「行きません!…九十九さん、すぐ救急車呼びますからね!」
やだやだ…血が…こんなに…

「ん…大丈夫だよ、これくらい」


「ハァ…相川さんもしぶといなぁ…。こいつにもっと酷いことしなきゃなんねぇだろ?さぁどうする?…てめぇもその女を渡した方が身のためだぜ?まだ死にたくはないだろ?」


「…乃愛ちゃんは絶対に渡さない」

「ヒャハハ、ヒーロー気取りですかぁ?ま、それもここまでだな。じゃあ次はどこにしようか…あぁ、刺すのもいいかぁ?」

「やっ…それはやめて下さい!」


…その男が私を見てニヤリと口角を上げた。

「相川さん。僕はねぇ相川さんの方がタイプなんだよね。あの女を逃した時はどうしてくれようかと思ったけど、相川さんとこうして知り合えたのは結果的によかったよ。…なぁに、一緒に夢の中で気持ちよく楽しむだけだから何も怖がることなんてないんだよ?それとも……この彼にもっと酷いことしちゃってもいいのかな?」


え…それは絶対にだめ!
これ以上…九十九さんを危ない目に遭わせられない…


「…わかりました…私が行けばいいんですね」
「乃愛ちゃん!ダメだ!行くな!」

九十九さんが、切りつけられていない方の腕で私をぎゅっと抱き締めてくれた。

それだけで…私は嬉しいです…

「九十九さん…ごめんなさい…私のせいでこんなひどい…うっ……う…」

「違う、乃愛ちゃんのせいじゃない、俺が…俺が行かせたくないんだ」

「九十九さん……」
そんな真剣な顔で言わないで…


「じゃあ行こうかぁ、相川さん」

「その前に…救急車だけ呼ばせて下さい」

「…あぁ。警察(サツ)にはかけんじゃねぇぞ」

バッグからスマホを取り出し、119をタップして見せた。

「救急です、救急車をお願いします」

場所やケガの状況を話していると、スポーツクラブの方から走って来る人影が見えた。

あっ、あれは…


…うん!
覚悟を決めて、最後に付け足した。

「あと…警察へ通報もお願いします!傷害事件です!」


「てめぇ…!何言って」
「人が来ました」

「なにィ!?」


走って向かって来る人達の影がどんどん近くに迫ってきた。

「大丈夫ですかー!?」
「九十九かー!?」
「あー!乃愛ちゃん!」

複数人の男性の声に驚いてナイフを落とした男は「ヤベェ」と言って逃げ出したけど、一人の男性に追い付かれると肩を捕まれ倒された。
そこに体格のいい男性が来て、一緒に取り押さえてくれた。

それを見てそっちの方は安堵したけど、それより九十九さん!

「九十九さん!大丈夫ですか!?…ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…」


「乃愛ちゃん、俺はこれくらい平気だよ。だから泣かないで?」

こんな時なのに、九十九さんは無事な右手で私の頭を撫でてくれる…

「でも…こんな…ひどい事に……っく……」

私は持っていたタオルを服の上から傷口に当てて泣きじゃくる事しかできなくて…
無力な自分が情けなくて…申し訳なくて…俯いた。


「じゃあさ、腕のケガが治るまで一緒にいてお世話してよ。願わくばケガが治ってからも。ていうか、一生?」


「…え…?」



「おーい、つっくん、それ何なん?告白?プロポーズ?ってゆうかー、俺のいないとこでやってほしかったわー。ねぇ乃愛ちゃん?ここにいる俺、邪魔モンじゃんねぇ」

「え?いっいえ、そんなことは…」

「えー、ナッシーいたのかよ…プロポーズ台無しじゃん…」

「えぇ!?プロポーズ!?」

「ははっ、冗談」

「も…驚かさな「うん、プロポーズの前に、俺と付き合って下さい、が先だよね」

「はっ、はい!?」

私の言葉に被せてきた九十九さんの言葉にびっくりしていたところに救急車が到着し、この話は訳のわからぬまま途切れた。


九十九さんには梨本さんが付き添ってくれ、私は警察の人から事情を聞かれたりと慌ただしい夜を過ごした。


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