さくらの記憶
「では、私はここで。ご馳走になり、ありがとうございました」
「とんでもない。こちらこそ、プライベートの時間までおつき合い頂き、ありがとうございました。またご連絡致します」

食事を終えてビルを出た後、栗林の隣で、さくらも深々とお辞儀をする。

やがて北斗の姿が見えなくなると、栗林は顔を上げてさくらに礼を言った。

「本当にありがとう!さくらちゃん。このお礼はまた改めてさせてね」
「いえ、とんでもない。私こそ、またご馳走になってしまって…」
「いや、今回は経費で落ちるから大丈夫。それにしても、まさかさくらちゃんのおばあさんの田舎だとはなあ。本当に凄い偶然。神代不動産との話がまとまれば、俺もあの土地に行って下見することになるんだ。さくらちゃんにも、ぜひ一緒に行ってもらいたいな。どう?これも何かの巡り合わせだと思って、うちに異動してくれない?」

うっ…と、さくらは言葉に詰まる。

「そ、それはまた、あの、もう少し考えてからでもいいでしょうか?」
「うん。でも、俺は諦めないからね。こう見えて、結構しつこいんだ。それに、さくらちゃんにとってもいい話だと思うよ?」
「そう、ですよ、ね。はい」

さくらは、今日のところはこれで、と栗林と別れた。

自宅へと向かいながら、確かにいいお話だなと思う。

受付をずっと続ける訳にいかないと、転職を考えていたくらいだから、同じ会社の違う部署に異動できるなら、その方がいい。

(そうしようかな…。それに、栗林さんのサポートをすれば、あの土地に関わる仕事ができる)

それはとても魅力的だと思った。
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