さくらの記憶
「さくらちゃん」
「おじいさん!」

ふいに呼ばれ、振り向くと、北斗の祖父が近づいてくるのが見えた。

「どう?また話せた?」
「ええ。お二人とも、私を覚えていてくれました」
「そうかそうか。それは良かった」

祖父は、にこにこ頷くと、木の幹に手で触れる。

「わしらよりもさくらちゃんの方が、よほどこの木と通じ合っとるなあ。やはり、さくらちゃんの方の血筋に、力が受け継がれとるんじゃろうな」

え?とさくらが首を傾げると、祖父は、
「5年前は詳しく話せなかったんじゃがな…」と、この木にまつわる言い伝えを話し始めた。

話を聞きながら、さくらは驚いて目を見開く。

(じゃあ、私と北斗さんは、遥か昔から繋がりがあったってこと?)

だからなのか、あんなにも北斗と離れたくないと思ったのは…と妙に腑に落ちる。

(尊さんとはなさん、二人の血が私にも流れている)

そう思うと、この木がより一層愛おしくなる。

「不思議なもんじゃなあ。千年も昔からずっとここにあって、今さくらちゃんに語りかけとるなんて」

しみじみと呟く祖父に、さくらも頷く。

「私、この木をずっとずっと守っていきたい」
「そうじゃな。このままここで、ずっとこの先も生きていて欲しい」

そして、ふとさくらを振り返る。

「そうじゃ、さくらちゃん。今度この木に聞いてみてくれんか?剪定の季節になったら、どこをどうして欲しいかって」
「剪定、ですか?」
「ああ。ほら、この木は他の人には見えんじゃろ?だから、業者に頼む訳にもいかない。こんな見事な大樹を手入れするのは、なかなか大変でな。わしも北斗も、庭師に1から教わったんだ。いつ頃、どの枝をどう切るか、切り口の保護の仕方とか…。そこらの業者より上手いと思うぞ」

ははは、と祖父は笑う。

「そうなんですね!分かりました。今度聞いてみますね」
「ああ。助かるよ」
< 54 / 136 >

この作品をシェア

pagetop