悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「ユーリエス様。本当ならこのままお送りしたいのですが、わたくしも約束がございますの。馬車の手配をしましたので、ご希望の行き先をお伝えくださいませ」
「そんな、そこまでしていただいて……レイチェル様、本当にありがとうございます」
「とんでもないことですわ。なにか必要なものがございましたら、わたくしの伝手で用意しますので遠慮なくおっしゃってくださいね」

 レイチェル様の気遣いに本当に頭が下がる。だけど聖剣で本当にセレーナの穢れを浄化できるかわからないので、念のためにできることはしておこう。

 浄化といえば、なんだろうか? 聖剣はまるで水晶のように透明で美しかった。他には水? それとも——。
 前世の記憶を漁り、あの事柄が浮かび上がる。

「レイチェル様、ひとつ用意してほしいものがあります」
「ええ、お任せくださいませ!」

 そしてまた一週間かけて、私たちは帝国へ戻ってきた。
 隠れ家に戻って早々、ミカにがしっと両肩を掴まれる。驚きに満ちた表情は、酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせていた。

「お姉ちゃん、か、髪っ!!」
「ああ、邪魔だったから切っちゃった」
「えええ——!! すっごい綺麗だったのに……!!」

 それからしばらくお互いの報告が続いて、すっかり夜も更け作戦会議は明日に回すことにしたのだ。その夜、ミカの最推しがフレッドの右腕であるヨシュアだと判明した。

 それと同時に、帝国で独立の準備を進めてくれた商会を営む貴族と同一人物だと知り、あの頃からだったのか……とひとり悶えたのだった。


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