悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「私、一度捕まってみようかと思って」
「はっ!?」
「フレッド、落ち着いて。ちゃんと逃げ出せるように準備してからよ。そもそも、騎士たちは皇帝陛下が人質に取られているから動けないだけで、忠誠心はそのままのはずでしょう?」

 確かに騎士たちの気持ちがそんなに簡単に変わるとは考えにくい。特に皇族に忠誠を誓った近衛騎士ならなおさらだ。

「だったら、幸いにも私が皇太子妃の部屋を使っていたと知られているし、少なくとも酷い扱いは受けないと思うの」
「確かに俺もユーリは将来の皇太子妃だから丁重に扱えと命令したが……」
「ははは……まあ、いいわ。結果オーライよ。だからね、フレッドは私を助けにきたと言ってへレーナに謁見したら怪しまれないわ」

 ここまでならユーリの策は問題なさそうだ。でも——。

「ユーリが捕まるのはどうしても俺が許せない」
「フレッド、心配は嬉しいけど今は皇太子として決断すべきよ。皇帝陛下も皇后陛下も捕らえられている今、騎士たちの心の拠り所は皇太子アルフレッドでしょう?」

 その言葉にハッとする。
 厳しい皇太子教育では時には非常な決断も必要だと叩き込まれた。百の騎士を見捨てて、万の騎士を救う。それが為政者なのだと。

< 157 / 224 >

この作品をシェア

pagetop