悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 私は決めていた。
 決心したのはコンラッド辺境伯の屋敷で、フレッドが聖剣を抜いた時だ。フレッドを見つめるイリス様の瞳は、憧憬の念が宿っていた。フレッドは義理堅いから私の護衛騎士のままでは、自分の心に素直になれないだろう。

 確かに私とミカとへレーナが転生してきて、原作とはまったく違う物語を紡いでいる。でもクリストファー殿下が王太子であったり、その婚約者が私であったり、ミカが皇女でフレッドが皇太子なのも変わらない。それなら。

 フレッドがイリスに心を奪われないと、誰が言い切れるだろう。
 人の気持ちは簡単に変わるのだと私は知っているし、それが普通だと理解している。ただ、簡単に受け止められるかといわれたら、さすがにそれはしんどい。

 それがずっとそばにいてくれたフレッドならなおさらだ。フレッドのサファイアブルーの瞳に浮かぶ熱が冷めていくのを、私は見たくない。

 だからフレッドを解任して、私はひとり旅に出ることに決めた。
 私を護衛してくれる女性騎士には、何日か経ってからフレッドに渡し忘れたものがあると言って、後を追ってもらおう。

 女性騎士に託すのはフレッドの専属護衛の解任状とそれまでの給金だ。中身が金貨だとわからないように、五十枚ずつ束ねて紙で巻いた。ジャラジャラしないので、貴重品だといえば信じるだろう。

 私は皇太子妃の部屋から私物をすべて持ち出し、侍女と騎士にはフレッドが戻るまで部屋には誰も入れないでほしいとお願いした。これで私の荷物がなくなったことは発覚しない。
 最後にミカへ手紙を残して一度帝都の自宅に戻った。



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