悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 久しぶりの我が家は、私とフレッドが出た後に片付けられたのか綺麗に整理整頓されていた。女性騎士にはリビングで待ってもらうことにして、キッチンでお湯を沸かす。

「なんだか久しぶりな気がするわ……」

 ここでフレッドとふたり、ゆっくりと穏やかな時間を過ごした。私だけに見せるフレッドの笑顔が浮かんでは消えていった。
 戻れるなら、あの時に戻りたい。でもそれはもう叶わない。私は前に進み続けるしかないのだ。

「……まあ、前世でもひとりだったし、どうってことないか」
「なにかおっしゃいましたか?」
「ううん、なんでもないの。久しぶりだから懐かしいなって思っただけよ」

 にっこりと微笑む女性騎士に聞こえてなかったようで、ホッとする。

 二日後にフレッドの忘れ物が見つかったと言って、女性騎士へ解任状と金貨を持たせて後を追ってもらった。コンラッド辺境伯で必要になるし、後続の騎士の手配も私がするから問題ないと急かした。

 それから大急ぎで化粧水の権利も店舗と工場の運営者へ書き換えて、自宅の不用品は売り払った。もうお金は十分すぎるほど貯まっているから、また新しい事業を始めてもいいし、一生まったりのんびり暮らしてもいい。

 もしフレッドがこの家を訪れた時のため、なんの心配もなくイリス様を娶っていいと手紙を残す。そして誰もいない空間へ向かって呟いた。

「それでは皆様ごきげんよう」

 こうして私のひとり旅が始まった。



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