悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「ユーリエス……そんなに自分を責めていたとは……気付いてやれなかったな。わかった、婚約解消はなんとかしよう。しかし国から出るのは私が許さない」
「お父様、それでは罪を犯した罰になりません。幸いにも帝国で事業を立ち上げて準備は整えてあります。これくらいの苦難でなければ、皆様が納得されません」

 絶対に引かないという決意を匂わせて、お父様のグレーの瞳を見据える。宰相を務める父の眼差しは鋭い。お父様が無言のままなので、立ち上げたばかりだけど事業や販売の規模などについて説明した。
 帝国で事業を立ち上げる際は、フレッドがとても力になってくれたのだ。知り合いのヨシュアさんという商人を紹介してもらって、準備を進めることができた。

 私の話に正当性があるか、実現可能か、さらにそのまま進めて将来性はあるのか検討しているようだ。数十秒の沈黙を破り、お父様は短くため息を吐く。

「まったくお前は……わかった。好きにしなさい。だが専属の護衛騎士はつけるからな」

 それならきっとフレッドがこのまま私の専属護衛を引き継ぐに違いない。帝国出身だと言っていたし、新入りだけど腕も立つ。恋人がいたら悪いから、それだけは事前に聞いておかないと。

「ありがとうございます、お父様」

 そう言って淑女の見本のようなカーテシーをして、お父様の執務室を後にした。


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