悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「いいか? これは私の命令だ。王族の命令に娘のお前が逆らえば、家門がどうなるか……わかるだろう?」
「……ですがクリストファー殿下。わたくしには婚約者がおりますので、これ以上はおやめください」
「もう一度言うぞ、お前はこのまま俺の相手をしろ」
「…………」

 今日の令嬢はしぶとい。デビュタントしたての令嬢など右も左もわからず、素直に頷くものなのだが。
 そこへノックの音が響く。無粋な邪魔に苛立ち、怒鳴るように声を上げた。

「なんだ!? 今は私の邪魔をするなと言ったであろう!! お前らは人払いもできんのか!?」
「……申し訳ございません。ジェクト・フランセルでございます」

 その声は紛れもなくユーリエスの父である、宰相の声だった。こんなところまで来て声をかけるくらいだ。なにか緊急の用件なのか?

「宰相か……いったいなんの用だ?」
「娘のユーリエスのことでお話がございます」
「ユーリエスだと?」

 今、このタイミングで一番聞きたくない名前だ。そもそも私が他の女で欲を吐き出しているのは、ユーリエスが貞操を守り続けているからだ。

 王家のしきたりで花嫁は乙女でなければならないからと、古臭いことばかり言うからではないか。

 結婚すれば他の女など相手にせずとも、あのユーリエスを抱けるのだ。それまでのただの遊びでしかない。

 それに今までだって、どんなに私が女遊びしていてもただ微笑み受け入れていた。
 他になにかあるのか……?

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