悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
「お前はもう会場へ戻れ。気が逸れた」
「かしこまりました」

 女は乱れたドレスを直し、ホッとした様子でそそくさと休憩室から出ていく。その女にチラリと視線を向けて、フランセル公爵が入れ替わりで部屋へ入ってきた。私はベッドに腰掛けたまま、面倒な気持ちを隠さずに声をかける。

「それで、用件はなんだ?」
「……クリストファー殿下にはお心当たりがございませんか?」

 私が質問しているというのに、フランセル公爵は答えをはぐらかす。心なしかいつもの宰相とは雰囲気が違うようだ。なぜかグレーの瞳で睨みつけられ、鋭い視線がナイフのように突き刺さる。

「なんのことだ、はっきりと言え。こんなところまで来て、いい迷惑なのだ」
「左様でございますか。それでははっきりと申し上げます」

 フランセル公爵がここで言葉を一旦止めた。一呼吸おいて私が口を挟む間もなく、話しはじめた。

「まずは、このたび非常にめでたいことに、クリストファー殿下と愛娘ユーリエスの婚約が解消の運びとなりました。そのお知らせでございます。それと、こんなところまで来てとおっしゃいますが、私としましては一週間ほど前からクリストファー殿下にお会いしたいと申請しておりましたが、ご都合が合わないようでしたので国王陛下にご相談しことを進めたのでございます。それゆえどうしてもご報告だけでもと思い、クリストファー殿下を探していた次第です。それにしても……クリストファー殿下は少々遊びが過ぎるのではないですか? あの少女は確かバートン侯爵家の次女で、嫡子レイチェル嬢の婚約が破棄された関係で現在は後継となったはずです。それをもしクリストファー殿下が乙女を散らして婚約破棄となったら……バートン侯爵も黙ってはおりますまい」

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