推しがいるのはナイショです!
「だが……」
「いいです、課長。すぐに直します」
 高塚さんに言いかけた課長を止めて、私はすぐにパソコンに向かった。

「わあ、ありがとうございます。私、水無瀬さんが上司で本当によかったあ」
 さっきの涙はどこへやら、満面の笑みで高塚さんが言った。
「水無瀬さん、本当に大丈夫? 俺も手伝うよ」
 心配そうになった課長に、私は笑顔を向ける。

「大丈夫ですよ。それに課長だって、これから吉沢産業の重役と会議ですよね? 気にせずに行ってください」
「……悪い。頼むよ。でも、君がやってくれるなら安心してまかせられる」
 課長に言われた私を、高塚さんが不満そうに睨んだ。
 睨むくらいならちゃんと資料作っとけばいいのに!

「ありがとうございます。頑張りますね」
 その時、終業のチャイムが鳴った。仕事を終えた人はそれぞれ片づけをして帰り支度を始める。課長も、補佐と一緒に会議に向かった。よほどのことがない限り残業は禁止されているので、ごめんね、と言いながら留美も帰っていった。

 帰っていく人々の中に高塚さんの姿も見えた。別の課の女子と笑いながら、こちらを見もせずに。
 さすがに私も腹が立ったけど、今はそれどころじゃない。とりあえず資料室にとんで必要な資料をかき集めると、すぐ資料作りにとりかかる。
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