推しがいるのはナイショです!
「気合入れて歌った! 踊った! 全部お前に見せるためだ! 俺だって楽しみにしてたんだ!」
 観客のあ然とした空気がこっちにまで伝わってくる。

 いないって……まさか、私のこと?

 しんとした静寂の中に、ワントーン低くなった久遠の声が響いた。
「待ってる。ここで、ずっと、待ってるから……俺の知ってる名前で、会いにこい」
 楽しみに……してた? 久遠が?

「なーんてね! たまにはワイルドなクウヤも、かわいいでしょ? みんな、また僕に会いに来てねー! 待ってるよー!」
 とたんに久遠は、また可愛いキャラに逆戻りした。初めて見るクウヤの一面に、どよめきと歓声で会場が埋め尽くされた。

「すみません、課長」
 私は、スマホを握ると課長を振り向く。

「私、これから行かなければならないところがあるんです。お先に失礼します!」 
 そうして頭を下げると、私はフロアを飛び出した。
 だから、一人残された課長が苦笑しながら呟いたことを、私は知らない。

「まだ振られたわけじゃない……と思いたいがな。どう思う? 久遠」

  ☆

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