完璧上司の裏の顔~コスプレ動画配信者、実はファンだった苦手な上司に熱烈溺愛される

 散歩に出ると、当然のように手を繋いできた。好きだと言われたけれど、千紗はまだ自分の気持ちがわからなかった。
 井村──田吾作といい、やり方は変だが千紗のことを思いやってくれているのはよくわかった。だが、色々なことが一気に起こって、脳内がショートしそうだったのだ。
 井村は優しかった。ずっと優しくしてくれていたのは知っている。だが、自分とはどうにも違いすぎて素直に受け入れられなかった。
 裏で露出した姿を世間に晒し、借金まみれの自分と、いかにも育ちが良さそうな好青年──というだけではなかったが──が付き合うというのはちょっと想像がつかなかった。
 普通に考えて借金まみれの女性とわざわざ付き合いたくないだろう。
 なのに、どうして。

 夏の終わりの涼やかな風が頬の熱を冷ましてくれる。
陽が落ちはじめて、空を淡いオレンジとピンクに染めていた。やわらかな光が二人を包んでいた。色々あってささくれた心が落ち着きを取り戻していた。
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