完璧上司の裏の顔~コスプレ動画配信者、実はファンだった苦手な上司に熱烈溺愛される

 母の実家は牧羊業を営んでいて、千紗もしばらくこちらで世間の目から離れてゆっくりしたらいいということを言われた。広大な敷地があるので、東京でこそこそ暮らす必要もない。
 そのほうが母のためにもなるのかもしれない。会社でも千紗のことは噂になっていることだし。
 家を売ったら、父親の思い出も消えてしまうような気がしていた。
 父の部屋に寝転んで、父の好きなものを吸収した日々。幸せな記憶だった。
 母の言うとおりなのはわかっている。家を残しても父が帰ってくるわけではない。
 今までのようなしんどい生活をしないで、自分の食い扶持だけ稼げばいい。

 ──もしお金の心配がなかったら……。
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