完璧上司の裏の顔~コスプレ動画配信者、実はファンだった苦手な上司に熱烈溺愛される

「はぁ、今日も憂鬱だなぁ」

 バイトとはいえ、会社に行くのは千紗にとって唯一の社会との接点だ。正直人と会うだけで疲れてしまうたちなのだが、これをやめたら本当にネット廃人になりそうなので無理してでも続けている。
 いつか配信をやめて就職して正社員になりたい。だがそれは父親が遺した借金を返してからだ。

 田吾作のアドバイス通り、人気の歌い手さんとコラボしたところ、ものすごい反響があって、お互い登録者数が一気に増えた。
 最近女性が好きそうな曲を選んだり、オタク向けのネタに走ったりした甲斐もあり、登録者数は伸びている。うまくいけば今年中に返せそうだ。
 そうしたらきっと病気の母親も元気になるだろう……。
 己の不幸を呪いつつも、千紗は配信者としての自信はつけていた。
 なにより全くウケなかった初期と違い、段々と音楽そのものを評価してくれる人や女性ファンも増えてきた。
 友達もいない千紗にとって、ネットで充実していることは、今や生きる意味ともなりつつある。

 ──それに田吾作さんとも会えたし。

「おはよう。高倉さん。あのさ、今後のことで話がしたいんだけど」
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