聡明なインテリ総長は、姫を余すことなく愛したい

「で、でもっ…」



あんな話、忘れられるわけがない。



そんなの無理です、って言おうとしたら。



「…お願い」



紫呉さんの香りに包まれて、小さな声で囁かれたあと頭の上に唇が落とされた。



「翠はなにも知らなくていいんです」



一瞬呆然としてしまい、棒立ちしているうちに紫呉さんはタクシーに乗り込んでいた。



「…っ。待って、紫呉さんっ!!」



呼び止めようと思ってすぐさま走っても、紫呉さんは私の事なんて見向きもしない。



紫呉さんを乗せたタクシーは、そのまま走り去っていった。



どんどん遠ざかるタクシーを見つめながら、へなへなとその場に座り込む。



「っ…なんで、あんなこと…」



『翠はなにも知らなくていいんです』



これ以上は踏み込むな、って。



遠回しに言われた気がする。



紫呉さんは優しいからああ言っただけなのかもしれない…けど。



「…っ悔しいです…」



私は紫呉さんの彼女なのに、何も言葉をかけられなかった。



それが、すごく悔しい。



「翠ちゃん大丈夫…?!紫呉と何があったの!?」



そこに駆けつけてくれたのは、顔面蒼白にしている斗真さん。
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