人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「なんだ。惚れてもいいぞ……って、なんで今後ろに下がった」

「最近の殿下はすぐに調子に乗って人にセクハラ働くので。そろそろ訴えたら勝てるんじゃないかと思ってます」

「夫婦なのにか? アリアは相変わらずつれないな」

「そういうのは、両思いの相手とやるものですよ」

 クスッと笑ったアリアは遠くに見える神殿を眺める。

(もし、ヒナが来ない未来があったとしても)

 宣戦布告を受けたあの日、ロイから言われた言葉を思い出す。
 未来というものは"今"を積み重ねていった先の結果で、確定した未来などなく、運命が気に入らなければ全力で抗い続けると言った、この小説のヒーローは、もしヒロインが異世界転移して来なかったとしても、目の前の災いも困難もきっと自分の持てる全てを使って解決のために奮闘していくんだろう。

(きっと、後悔しないためには、今できる手を打ち続けるしかできないんだ)

 もう、アリアにはここから先の展開がどうなっていくのか予想できない。
 小説の通りに行くのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
 先が分からない事が怖い。だけど、先が分からない未来に期待している自分もいる。

「で、何か俺に頼みたいことができたみたいだな」

 アリアの淡いピンク色の瞳から、彼女の心の機微を掬い取ってロイが尋ねる。

「キルリアのアレクお兄様へ協力要請を出していただけませんか? 今後の方針決めのためにも専門家の意見が聞きたいです」

「アレク殿は魔獣の研究者、だったか」

「アレクお兄様の研究は魔獣の生態だけではないのです。古代魔法や黒魔、禁呪、特殊な魔法といったマイナーかつ人に嫌厭される分野が大好物なのです」

「それは、随分危険な研究をしているな。暴発したらどうする気だ」

「しませんよ。アレクお兄様は無属性の基本的な生活魔法か、既に組まれた魔法の起動しかできませんから」

 聞き覚えのある話にロイはアリアの目をじっと見る。

「アレクお兄様も私と同じこの瞳(特殊魔法)の継承者なので。ただし、完全頭脳労働派なので、身体強化魔法使ってもほぼ運動能力上がらないんですけど」

 身体強化魔法かけても木登りすら怪しいなと苦笑したアリアは、

「3度の飯より実験好きで、ちょっとシスコン入ってますけど、危険な人ではないので、帝国に招いてもらえませんか? きっと私が頼めば助けてくれますから」

 とロイに願い出る。

「不安な単語がちらほら出て来たけど、まぁいい。確かに、状況打開するのに専門家の助けは欲しいし」

 叶うかどうかは向こう次第だけどと前置きをして、ロイはアリアの提案を受け入れた。
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