人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「アリア、ちょっといいか?」
訓練場に残っていたアリアにロイが声をかける。視線を上げればその後ろに見覚えのある顔があった。
「お久しぶりです、アリア様」
「あなたは……」
アリアはその騎士団の制服をまとった男性を見て驚きで目を見開く。
「改めて自己紹介をさせて頂きます。騎士団第5部隊隊長職を務めておりましたウィリー・ダンケルと申します。アリア様のおかげでこの度、騎士団への復帰がかなうこととなりました」
そう言うとウィリーはアリアに傅いて、騎士らしくアリアの手の甲にキスをする。
「復帰出来るほどに体調が回復された事、皇太子妃として嬉しく思います」
アリアはそれを受け、ふわりと優しい笑みを浮かべる。
ウィリーとはあの療養所で知り合った。壊血病、こちらでいう船乗り病の患者として。
「私、お役御免という事でしょうか? それともダンケル隊長の指揮下に入れば良いのでしょうか?」
アリアはロイの方を見てそう尋ねる。
第5部隊は確か海上関係の一切を取り仕切っていたはずだ。
その隊長格が前線復帰。
ただでさえ女性に対して風当たりの強い帝国で、今回の災厄を収めるにあたりアリアが指揮権を持つことに対する不満が伝統を重んじる貴族たちから上がっていることはアリアの耳にも届いている。
思うところはなくもないが、適任者がいるなら譲るべきか、とアリアはどちらでも構わないがと視線で問う。
「言い出しっぺが何を言っている」
だが、ロイは呆れたようにアリアに笑い、
「そう言うのは、俺の仕事だといつも言っている。アリアは余計な気など回さず、好きに振る舞ってくればいい」
とアリアを責任者から降ろす気はないと言う。
「ダンケル隊長はそれでよろしいのかしら?」
ただでさえ何が起こるか分からない災厄を前に、要らぬ揉め事は遠慮したい。
アリアは真意を探るように淡いピンク色の瞳でじっとウィリーを見つめる。
「私をはじめ、多くの者がアリア様に命を救われました。どうぞ、我らをお使いください。海上戦ならお役に立てるでしょう」
ウィリーはよく通る声でアリアに忠誠を誓う。
「だそうだ。ウィリーは有能だ。上手く使え」
自分からアリアの下に付きたいと立候補して来たんだとロイは改めて紹介する。
「いい事はしとくもんだな、アリア。これが、お前がこの国でやって来た事の結果だよ」
驚いたような顔でロイの方を見てくるアリアに、ロイは静かにそう告げる。
ひとつひとつは小さな変化かもしれない。
それでも、確かに変わっているのだ。
"物語"も"アリアの価値"も。
「分かりました。では、ウィリー。最初の命令です。勝手に死ぬ事は許しません」
アリアは傅くウィリーを前に立ち上がると静かな声でそう告げる。
「これは、対人戦ではありません。数がいればいいというものでもない。足手纏いは必要ありません。必ず、生きて王都の地に戻るという気概のある者だけ、私について来なさい」
淡いピンク色の瞳には誰も死なせないと強い意志が宿っていた。
「前線において、全ての責とあなた達の命は私が預かります。ですから、力を貸してください」
そう言って微笑むアリアはとても勇ましく美しい、ひとりの戦士の顔をしていた。
訓練場に残っていたアリアにロイが声をかける。視線を上げればその後ろに見覚えのある顔があった。
「お久しぶりです、アリア様」
「あなたは……」
アリアはその騎士団の制服をまとった男性を見て驚きで目を見開く。
「改めて自己紹介をさせて頂きます。騎士団第5部隊隊長職を務めておりましたウィリー・ダンケルと申します。アリア様のおかげでこの度、騎士団への復帰がかなうこととなりました」
そう言うとウィリーはアリアに傅いて、騎士らしくアリアの手の甲にキスをする。
「復帰出来るほどに体調が回復された事、皇太子妃として嬉しく思います」
アリアはそれを受け、ふわりと優しい笑みを浮かべる。
ウィリーとはあの療養所で知り合った。壊血病、こちらでいう船乗り病の患者として。
「私、お役御免という事でしょうか? それともダンケル隊長の指揮下に入れば良いのでしょうか?」
アリアはロイの方を見てそう尋ねる。
第5部隊は確か海上関係の一切を取り仕切っていたはずだ。
その隊長格が前線復帰。
ただでさえ女性に対して風当たりの強い帝国で、今回の災厄を収めるにあたりアリアが指揮権を持つことに対する不満が伝統を重んじる貴族たちから上がっていることはアリアの耳にも届いている。
思うところはなくもないが、適任者がいるなら譲るべきか、とアリアはどちらでも構わないがと視線で問う。
「言い出しっぺが何を言っている」
だが、ロイは呆れたようにアリアに笑い、
「そう言うのは、俺の仕事だといつも言っている。アリアは余計な気など回さず、好きに振る舞ってくればいい」
とアリアを責任者から降ろす気はないと言う。
「ダンケル隊長はそれでよろしいのかしら?」
ただでさえ何が起こるか分からない災厄を前に、要らぬ揉め事は遠慮したい。
アリアは真意を探るように淡いピンク色の瞳でじっとウィリーを見つめる。
「私をはじめ、多くの者がアリア様に命を救われました。どうぞ、我らをお使いください。海上戦ならお役に立てるでしょう」
ウィリーはよく通る声でアリアに忠誠を誓う。
「だそうだ。ウィリーは有能だ。上手く使え」
自分からアリアの下に付きたいと立候補して来たんだとロイは改めて紹介する。
「いい事はしとくもんだな、アリア。これが、お前がこの国でやって来た事の結果だよ」
驚いたような顔でロイの方を見てくるアリアに、ロイは静かにそう告げる。
ひとつひとつは小さな変化かもしれない。
それでも、確かに変わっているのだ。
"物語"も"アリアの価値"も。
「分かりました。では、ウィリー。最初の命令です。勝手に死ぬ事は許しません」
アリアは傅くウィリーを前に立ち上がると静かな声でそう告げる。
「これは、対人戦ではありません。数がいればいいというものでもない。足手纏いは必要ありません。必ず、生きて王都の地に戻るという気概のある者だけ、私について来なさい」
淡いピンク色の瞳には誰も死なせないと強い意志が宿っていた。
「前線において、全ての責とあなた達の命は私が預かります。ですから、力を貸してください」
そう言って微笑むアリアはとても勇ましく美しい、ひとりの戦士の顔をしていた。