人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「そんな事してキルリアとの関係が悪化でもして本当に離婚問題にでも発展したらどうします」

「本当に関係悪化させる気ならこんなに協力してくれるわけがないだろ」

 ロイはアレクの開発した瘴気を可視化できる装置や測定器、今後起こりうる事態の予測などが書かれた報告書を指す。

「本当に頭いいな。アリアの報告書だけでここまで事態を正確に把握できるなんて」

 アレクからの的確な助言は大いに役に立ち、現場にいるアリアがそれを活かして上手く立ち回ったおかげで災厄と言えるスタンピードが起きたのに、被害がかなり少ない状態で抑える事ができた。

「さすがシスコン。アリアがいれば今後も安泰だな」

「離縁状これだけ送りつけられといてよくそんなこと言えますね」

「アリアは成人女性だぞ? 王家の承認印なしなら当人同士の意思に反して離縁はできない。俺は離縁する気さらさらないし、アリアだって」

 と言葉を閉ざしたロイは、アリアが自分に向けてくれるようになった恥ずかしそうなはにかんだ笑顔を思い出し、表情を緩める。
 誕生日になんでも聞いてやると言ったのに、アリアは離縁を望まなかった。
 朝一緒に過ごす時間も前向きに検討してくれると言った。
 少しずつ歩み寄ってくれる今のアリアならきっと簡単には離縁して欲しいなどと言わないはずだ。

「今回の件が片付いたら、離宮から戻るように言うつもりだし」

 王弟殿下の件が片付いた今、表立って皇太子(第一継承者)に歯向かう人間はいないだろう。
 アリア自身が立てた功績も十分で、彼女が皇太子妃である事に異を唱える者ももういない。

「アリアとの時間だって、これからはもっと取るつもり、だし」

 アリアが許してくれるなら、もっと一緒にいる時間を取りたい。
 アリアが個人の感情を持つことは悪ではないと言ったから。
 仕事ではなく、皇太子としてでもなく、ただアリアの家族になれたらと、柄にもなくそんな事を願ってしまった。

「殿下、ベタ惚れじゃん」

「いますよね、本命に手を出せないタイプ」

「うるさい。……これでも随分進展したんだよ」

 そう言ったロイは立ち上がる。

「行かれるにはまだ少し早いと思いますよ」

「神殿に寄ってから迎えに行く。アリアと約束してるから」

『私達がちゃんと無事で帰って来れるように毎朝お祈りしに行ってくれますか?』

 と出立前にアリアと約束した事をロイは律儀に守っていた。ロイはアリアと違い信心深い方ではない。けれど、アリアが願うならきっと何か意味があるのだろうとは思っていた。
 結局今日に至るまでアリアの言った"困っている人間"に遭遇する事はなかったけれど。

「やっと、アリアが帰ってくる」

 1番に顔を見せてくれると約束してくれた彼女を、自分が迎えに行ったらどんな顔をするだろう。
 そんな事を考えながら、神殿に近づいた時だった。

「……転移魔法」

 大きな魔力の流れを感じ、設定していない場所で、空間が捻じ曲がる気配がした。
 瞬間、辺りが眩い光に包まれて次の瞬間には、何もなかった空から少女がひとり降って来た。ロイは反射的に走り出していた。
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