人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

55.悪役姫は、離縁を画策される。

 再び踏んだリベール帝国の地、アリアがいる離宮の部屋で、

「新しい妃との生活はどう?」

 とアレクは淡々とした口調でそう言った。

「面白い事をいいますね、お義兄様。私の妃はここに眠っているアリアただ1人ですよ」

 キラキラした嘘くさい笑顔を浮かべたロイはすぐさま応戦する。

「誰がお義兄様だっ!! ロイにお義兄様とか呼ばれたくないんだけど? なんなら今すぐ離縁させてアリアを自国に連れて帰りたいんだけど!?」

「嫌ですねぇ、お義兄様? 嫌だろうが、気に食わなかろうが、アレク殿下の方が年下だろうが、(帝国)アリア(キルリア)の婚姻が成立した時点で、アリアの兄は私の義兄ですよ。お・に・い・さ・ま?」

「マジでやめろ!! アリア以外からお兄様なんて呼ばれるのは鳥肌が立つ!!」

 しっしっと手で嫌そうに追い払う動作をするアレクにニヤっと人の悪そうな笑みを浮かべたロイは、

「なら今後は口を慎む事だ。俺はアリアと別れる気なんて全くないし、聖女を娶る気もない。この話俺にとって今地雷だからな!? ただでさえ城内に微妙な空気漂ってるのに、いきなり踏みに来るんじゃねぇよ」

 と口調を戻してアレクにそう言った。

「じゃあ、なんで異界から来た聖女サマにダイヤモンド宮あてがってるの? あそこ正妃の居住区域でしょ? しかも四六時中そばに侍らせてるらしいじゃん」

「誤解だ。元々今回の討伐の件が終わったらアリアにダイヤモンド宮(正妃の住まい)に週何日かでも戻って来ないか? っていうつもりで準備してたんだよ。すぐ入れてかつ俺の息のかかった人間で固めてる場所があそこしかなかった、ってだけの話だ」

 こんな予定ではなかったとロイは隠す事なく舌打ちをする。

「四六時中そばに侍らせてる、は?」

「四六時中なら、ここ(離宮)にも連れて来てるだろうが。ヒナは素直で人が良い。まだこちらの世界の善悪の判断もつかず、求められたら際限なく力を使ってしまう。神殿派は古文書に則って聖女の所属は教会のものだと主張しているし、きっちり引導渡してやったはずの王弟殿下は俺の従兄弟殿の妻にどうかと狙ってくる。俺が保護して手元に置かないと、ヒナはすぐぺろっと悪意ある人間に喰われるぞ」

 アリアの10分の1で良いから警戒心を持って欲しいと嘆くロイを見て、結婚して1年経つのに未だにアリアと打ち解けられないのかとちょっと気の毒になったアレクは、もう何枚目か忘れた離縁状(証人欄記載済み)をそっとロイに手渡す。

「お・ま・え・なぁ!! 隙あらば離婚させようとするのやめてくれる? マジで」

 今精神的に余裕ねぇんだよ! とロイは苛立ったように離縁状をぐしゃぐしゃにして投げ捨てた。
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