人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

59.悪役姫は、目を覚ます。

 過去の出来事を沢山夢として見た。細切れに再生されるそれらの時系列はバラバラで心が軋むほど悲しいものもあれば、幸せだと思った時間もあった。

 まるで1つの物語のように連なるそれらを眺めてアリアは思う。
 これはきっと彼と彼女の物語の傍で、決して語られることのない、悪役姫のサイドストーリーなのだ、と。

『悔しいか、アリア』

 初恋に終止符を打たせてくれた今世のロイに言われた言葉を思い出す。

『選んでくれない? お前が自分で選ぶ側になれ』

 私はどんな未来を選べばいいんだろう? とアリアは正解が分からず立ちすくむ。

『アリアならなれる。俺がそうしてやる』

 この小説のヒーローは、悪役姫にも優しくて。

『アリア、強くなれ』

 時々厳しくて。

『俺はアリアを信じている』

 いつでも誠実に向き合おうとしてくれた。

「……会いたい、な」

 アリアはシンプルにそう思う。
 きっと、彼の隣にはヒナがいて、もう自分の居場所なんてないだろうけれど。
 それでも。

「ロイ様に、会いたいな」

 物語から退場する前に、せめて一目会いたい。
 愛しているの代わりに、幸せを祈って手を離せたら。

「私はきっと、それだけで幸せだわ」

 悪役姫には過分なほどの"幸せ"をもらったから。
 本来あるべき場所に、返す時が来ただけなのだ。
 ロイに会いたい。
 また、傷つくだけだったとしても。
 そう思うと同時にあたりが明るくなって、意識が少しずつ浮上した。


 目が覚めて一番に視界に入ったのは見慣れた離宮の天井で、アリアはベッドの上でパチパチと瞬きを繰り返す。
 力を使い切った時の目覚めは、ぐっすり休んだあとなのでいつもなら身体が軽くなっているはずなのに、なんだか動きがぎこちない。
 アリアは自分のパーツをひとつひとつ確かめるように身体を起こす。
 ベッド周辺はキチンと整理整頓されていて、騎士団の制服ではなく、ラフな寝巻きを着ている事に気づく。
 あれからどれくらい寝ていたのだろう?
 報告書をあげなくちゃと放り出してしまった仕事の事を考えて、とりあえず着替えようとクローゼットを開ける。

「……なんか、ドレス増えてる」

 そうだ、部屋のクローゼットはロイにもらったドレス類を全部しまっていて、あまりに増えすぎたものだから自分のものは隣室に移したんだったと思い出した。
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