人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「……彼女は」

 一目でわかる、この世界の人ではないというヒナの姿に、マリーは何故一緒にいるのかと眉根を寄せる。
 今日はこれ以上の話は難しいなとこっそりため息をついたアリアは、

「ヒナ、殿下はヒナに良くしてくださる?」

 困っている事はないかと尋ねる。

「あ、ハイ。そこは……とても良くして頂いていて。ロイ様はこの世界が分からない私にとても優しくしてくれて、なるべくそばにいてくださいますし。住まわせていただいているところはすごく豪華な屋敷だし」

 言葉を選ぶようにヒナはゆっくりと頷く。
 そんなヒナを見ながら、アリアは思う。まぁ仮にパラレルワールドなのだとして、彼女は自分が知っているヒロインである事は間違いないし、時渡りの乙女はロイとの関係を順調に築いているようだ。
 そこが変わらないなら、アリアにできる事も変わらない。

「……良かった」

 アリアはヒナの黒い瞳を見ながらつぶやく。
 悪役姫さえいなければ、彼らはこれから小説の通り恋に落ちて幸せになるんだと思う。
 気をつけて帰ってね、とアリアはヒナに帰り道を教える。
 帰り道を辿ろうとした背を見送っているとヒナがくるりと振り返り、名残惜しそうな黒い瞳と視線が絡む。

「あのっ! 厚かましいかもしれませんが、またお話しに来てもいいですか!?」

「えっ?」

「……ダメ、でしょうか?」

 突然のヒロインからの申し出に戸惑い驚いたアリアに、ヒナはしゅんと目を伏せる。
 誰がこの可愛らしい美少女の申し出を断れるだろうか、いや無理だ。
 そう思ったアリアはくすっと笑って、

「いつでもいらっしゃいな。次はうち(離宮)でお茶でも飲みましょう?」

 美味しいお菓子を用意しておきますね、と言ったアリアにぱぁぁっと表情を明るくしたヒナは元気よく頷く。
 そんなヒナを見て、

(ヤダ、ヒロインやっぱり超可愛い)

 とアリアは推しであるヒロインにときめきつつ、次回の約束をして楽しそうに帰っていく背中を今度こそ見送った。
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