人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

63.悪役姫は、ファンを獲得する。

 それからというもの、ヒナは本当に度々離宮まで足を運んでくれるようになった。
 ヒナは自分の客人だからと伝えて以降、離宮で彼女に表向き敵対心を持つ侍女はいない。
 ロイが選定してアリアの支持者で固めただけあって、アリア(皇太子妃)の立場を脅かす正妃の住まいにいるヒナの事をよく思わない侍女たちもいたけれど、アリアは1人ひとりに声をかけて宥めていった。
 まだ正妻として居座ってしまっている自分が悪いのであって、けしてヒナが悪いわけではないのだ。
 ロイとヒナの仲睦まじい様子を知ればもっと動揺するかと思っていたが、存外落ち着いている自分にアリアはほっとする。

 何より、ヒナと話をするのはアリア自身とても楽しかった。
 2回目の人生の時の話ができる相手などアリアにはヒナしかいなかったし、ヒナにとっても元いた世界の話を共感し、理解してくれる相手はアリアしかいなかった。
 だからだろうか? 共通の話題があるおかげでまるで仲の良い友人のようにヒナとアリアはあっという間に打ち解けた。

 ヒナの話す内容の9割はゲームと漫画とアニメでしめていた。

「で、これが私の嫁なんですけど!」

 ヒナはバーンッとスマホに映った彼女の嫁もとい最推しゲームキャラクターを見せる。
 スマホケースについているストラップは推しの武器であるロングソードらしく、ヒナが持ち歩くスクールバックにはキャラグッズがジャラ付けされていた。

「まだスマホが動いてることにびっくりよ」

「ソーラー充電器持ち歩いてるので」

 嫁の顔が見られないとか辛すぎると言ってヒナは大事そうにスマホを抱きしめる。

「そんなに面白いの? そのソーシャルゲーム」

「アリア様の前世にコレが存在しないのもびっくりですよ。ゼノ様のいない世界とか考えられない」

 話題のゲームだと漫画アプリの広告なんかに表示されることもあるけれど、アリアの記憶の中にはヒナがドハマりしているというその謎解きアクションRPGは存在しない。

「まぁ、謎解きももちろん面白いんですけど、ストーリーが充実してて。ゼノ様は本当隊長が好きで、怒られると分かってて何故絡みにいく!? でもそれが見たいっていうか、隊長とのじゃれ合いが尊いっていうか。普段は愛すべきバカって感じなんですけど、やる時は別人みたいにしっかりきっちりしめててかっこいいんですよ!!」

 戦闘シーンカッコいいしとヒナはその茶髪のキャラクター紅蓮の騎士ことゼノ・クライアンのことをアリアに熱弁する。
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