人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「なんなら私もドレスやめてそれ系にしようかしら?」

 とすごく動きやすそうとアリアは2回目の人生では当たり前の様に着ていたシンプルで楽な可愛い服を思い出す。

「アリア様似合うと思います! あ、でも個人的には騎士服推し、あーでもでもドレス姿も好き」

 ヒナの躊躇いなく"好き"と言える素直さが羨ましくて、好ましくアリアは優しく微笑むとヒナの黒髪をそっと撫でる。

「アリア様?」

「あなたはきっと、みんなに愛されるわ。未来(小説の結末)を知ってる私が保証する」

 いずれ彼女がこの国のファーストレディーになるのだ。
 誰からも愛される国を救った聖女なら、衣服だけでなく大抵のことには目をつぶってくれるはずとアリアは思う。

「もう少し、仕事を片付けてしまってもいいかしら? それまで好きにくつろいでいて」

 アリアはベルをチリンと鳴らす。
 すぐさまマリーがやってきて、ヒナのためにココアとお菓子、そして娯楽本を持ってきてくれた。

「字が読めるのはありがたいですね。書けないけど」

「転移者に優しい仕様ね。書く方はそのうち練習すればいいわ」

 それ結構面白いのよ、と小説も好きだと言うヒナに勧める。彼女は意外とバトルものが好きだから、きっとこの冒険譚も好きになる。
 以前アリアがロイと過ごした夜に話したように、いつかヒナもロイとこの冒険譚の話をするかもしれない。
 ロイもこの話が好きだと言っていたからと2人で過ごした日々を振り返りながらアリアは幸せそうに笑ってその冒険譚を撫で、ヒナに渡した。

 優しい沈黙が広がるアリアの執務室で、美味しいお菓子とココアを前にヒナはアリアに借りた冒険譚のページをめくる。
 キリのいいところでチラッとアリアの方に視線を向ければ、彼女は真剣な様子で書類に目を落とし、時折何かを書き付けていた。
 普段騎士として働く傍らで、こんなにも遅くまで沢山の仕事をこなすなんて皇太子妃とはなんて大変な役職なんだとヒナは思う。
 真剣にだけどどこか楽しそうに仕事に向かうアリアの姿が、王城の執務室にいるロイの姿と重なる。
 そんなアリアの事を見ながらヒナは思う。
 アリアは白い結婚だだの、離婚秒読みだだの言うけれど、ロイは勿論アリアだってロイの事を愛しているようにヒナの目には見える。
 なのに、なぜこの2人はこれほどまでにすれ違わなくてはならないのか?
 この国に来て保護してくれたロイには感謝しているし、気にかけてくれる彼の事は好きだ。だけど、同じくらい目の前にいるアリアの事も好きだとヒナは思う。
 皇子様とお姫様なんて物語ならあっという間に惹かれ合って、ハッピーエンドなのだろうけれど、現実はどうしてこうもままならないのか。
 
(2人とも、素直に幸せになればいいのに)

 そんな事を思いながら、ヒナは再び冒険譚に目を落とした。
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