人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「流石だなアリアちゃん、ありがとう!!」

 討伐済みのフェンリルをチラッと見たハデスはフレデリカを抱きしめたまま、アリアの手を取りブンブンと腕を上下させ礼を述べた。
 ちなみにハデスはアリアに剣の稽古をつけたうちの1人なのでアリアが魔剣の使い手である事もフレデリカが荊姫のファンである事も知っている。
 そのためこの義兄からアリアはとても可愛がられていた。

「ダーちゃん。お姉様、ハデス様のことダーちゃんとか呼んでらっしゃるんですか!?」

 普段2人に会う時もそんな呼び方はしていなかったので、思わずハデスの事を二度見してしまったアリアに対し、

「だって、ダーリンよりダーちゃんの方が可愛いでしょ?」

 フレデリカはなんて事ないかのようにさらっとそういう。

「いえ、あの、ハデス様にもお立場がっ」

「あら、2人っきりの時だけよ。ねぇ、ダーちゃん?」

 フレデリカにそう呼ばれ、満更でもない顔をするハデスを見てアリアはツッコむのをやめた。かつて怪物とまで言われた男が姉の手にかかればワンコ化してしまうのだから、本当に恐ろしい。
 もっともハデスがこうなるのはフレデリカの前だけだが。

「そう言えばダーちゃん、あっちは大丈夫なのかしら?」

 最愛の妻の無事を確認したハデスがああっと真面目な顔をして頷く。

「先程無事白虎の討伐が終わった。怪我人も特にいない」

 この国の皇太子もなかなかの剣の使い手だったとハデスが述べるのを聞き、ハデスが討伐に加わっていた事を知る。
 ハデス様に褒められるなんて、流石ロイ様などと顔を赤らめそうになったところでアリアは本来の目的を思い出す。

「ああーー!! ロイ様の見せ場を奪って白虎討伐して離縁してもらう計画がぁぁああ--」

 やらかした。
 がくっと膝を折り、アリアはあちらの討伐に間に合わなかった事を悔やむ。
 姉の命と離婚作戦なら間違いなく姉の命優先なのだけど、それでも絶好の機会を逃しただけに後悔が募る。

「はぁ、ハデス様とロイ様が居て魔獣が倒れないわけがないですよねぇ。例え普通の剣でも、そんな時間かからないですよねぇ。うぅ、でもお姉様が無事で本当に良かった」

 くっと悔しそうに唇を噛み、どうせ離婚作戦失敗するならロイの活躍が見たかったと別の意味で悔やむアリアの姿を見て、フレデリカはふむと頷き、ハデスの腕から抜け出した。
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