人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「好きな人ができたなら、さっさと私のことなんか手放してキルリアに返してくれればよかったのよ。首を刎ねたくなるほどに、私のことを憎む前に」

 これは、彼と彼女の物語。そこに自分が入り込む余地なんて、1ミリたりとも有りはしない。
 だからこそアリアがヒナを害すほど憎む前に、ロイがアリアと離縁しキルリアに身柄を送還してくれたならあんな結末にはなかったのに、と思ってしまう。
 もし、そうしてくれていたなら、愛していたロイが自分以外(ヒナ)に触れて幸せそうな顔で愛を育んでいくのを間近で見て、自分に向けられた愛情は偽物なのだと思い知らされることも、離宮に追いやられて惨めな思いになることも、自分が壊れてしまうほどに嫉妬に駆られることもなかった。
 それも全て終わって振り返った後の、結果論でしかないのかもしれないけれど。
 それでも1回目の人生でアリアの心が傷つき、苦しんだ事実は記憶が引き継がれているアリアの中ではなくならない。

「嫌いよ。大っ嫌い。他の人を寵愛するくらいなら、愛していない妃になんて最初から優しくしないでよ」

 ロイが優しくなんてしないでくれたら、歩み寄りの姿勢を見せないでくれたら、彼に愛されているのだと勘違いなどしなかった。政略結婚で結んだアリアとの縁は初めから政治上のものだけで、お飾り妻なんて愛する気など無いのだと確固たる意志で拒絶してくれれば良かったのだ。
 そんなこと、1年後に異世界から聖女がやってくるなんて知らない今のロイにできるわけがないのだけど。

「嫌い、嫌い、大っ嫌いよ。あなたなんて、顔も見たくない」

 そう自分に言い聞かせるようにアリアは繰り返す。

「本当に、嫌いになれたら……どれだけ楽か……」

 それでも、どれだけロイなんて嫌いだと自分に言い聞かせても、嫌いになりきれていないのだ。
 これから先彼に愛されることなど決してないと分かっているはずなのに。
 いっその事憎めたらよかったのに、とアリアは思う。だけど、アリアは知っている。
 帝国のために尽くすロイが、今までどれほど苦境に立たされながら表舞台に立ち続けていたのかを。そしてこれから世界が平穏を取り戻すためにヒナと共にどれだけ奮闘していくのかを。
 そして、そんなかっこいいヒーローに幸せになってほしいと願う自分も嘘ではなく存在するのだ。

「ねぇ、早く幸せになってよ、私が絶対手の届かないくらい遠い場所で」

 アリアは熱に浮かされながら祈る。
 何度人生を繰り返してもどうしようもなくロイの事を嫌いになることができないのなら、今世は絶対に邪魔することのないくらい遠い場所で、あなたの幸せを祈るから、と。
 愛してくれなくていい。だから、アリアは早々にこの物語からの退場を希望する。

「……あなたがこの世界で、悪役姫に振り回されずに幸せになってくれたら……嬉しいな」

 文句を言い終えたアリアは満足そうに眠りに落ちる。
 規則正しく呼吸が聞こえはじめてから、ロイはアリアの頬に伝う涙をそっと拭った。
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